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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)73号 判決

大阪府八尾市太田四丁目五〇番地の三

控訴人(甲事件原告・乙事件被告)

セイコー辻本株式会社

代表者代表取締役

辻本俊二

大阪府池田市神田二丁目一一番五号

控訴人(乙事件被告)

株式会社音羽

代表者代表取締役

田舞徳太郎

大阪市住吉区杉本二丁目一番四九号

控訴人(甲事件原告・反訴被告)

プラスパーシステム株式会社

代表者代表取締役

藤井勝嘉

大阪市北区中崎西三丁目二番一七-三一〇号

株式会社キープロン

代表者代表取締役

久保皓一

大阪府大東市御供田一丁目二〇番二五号

フィチュアシステム株式会社

代表者代表取締役

中勢俊也

大阪市天王寺区烏ケ辻一丁目一番一九号

日本漢方同仁株式会社

代表者代表取締役

首藤正伸

控訴人ら訴訟代理人弁護士

川原俊明

橋田浩

右川原俊明復代理人弁護士

中村信仁

東京都港区西新橋三丁目八番三号

被控訴人(甲事件被告・反訴原告・乙事件原告)

株式会社ジャコス

代表者代表取締役

栗山民毅

訴訟代理人弁護士

上村眞司

漆原孝明

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  甲事件本訴請求につき、

1  被控訴人は、控訴人セイコー辻本株式会社に対し、金九八五万円及びこれに対する昭和六二年一二月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人は、控訴人プラスパーシステム株式会社に対し、金三三六万六六四〇円及びこれに対する昭和六三年四月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人プラスパーシステム株式会社のその余の請求を棄却する。

3  被控訴人は、控訴人株式会社キープロンに対し、金二三四万一四六八円及びこれに対する昭和六三年四月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は、控訴人フィチュアシステム株式会社に対し、金七八万八八一五円及びこれに対する昭和六三年四月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人は、控訴人日本漢方同仁株式会社に対し、金一三五万五一九四円及びこれに対する昭和六二年一〇月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  甲事件反訴及び乙事件各請求につき、

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、すべて被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2  甲事件本訴請求につき、

(一) 控訴人セイコー辻本株式会社(以下「控訴人セイコー辻本」という。)

主文二1と同旨

(二) 控訴人プラスパーシステム株式会社(以下「控訴人プラスパーシステム」という。)

被控訴人は、控訴人プラスパーシステムに対し、金三三六万六六四〇円及びこれに対する昭和六二年一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 控訴人株式会社キープロン(以下「控訴人キープロン」という。)主文二3と同旨

(四) 控訴人フィチュアシステム株式会社(以下「控訴人フィチュアシステム」という。)

主文二4と同旨

(五) 控訴人日本漢方同仁株式会社(以下「控訴人日本漢方同仁」という。)

主文二5と同旨

3  甲事件反訴及び乙事件各請求につき、

主文三と同旨

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり削除、訂正(一1ないし7)及び付加(二1ないし5及び三1ないし4)するほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の削除、訂正

1  原判決一五頁二行目から同四行目の「及び被告ジャコスが開発販売するオンライン受発注・伝票処理システム「EOSシステム」(以下「EOSシステム」という。)」の部分を削る。

2  同二五頁一〇行目冒頭から二六頁三行目末尾までの「(3)EOSシステムの欠陥」の項を削る。

3  同二六頁七行目から同八行目の「解除の意思表示をし、右意思表示」を「解除の意思表示及び損害賠償の履行の請求をし、右意思表示(右履行の請求を含む。)」と改める。

4  同二七頁三行目冒頭から三一頁五行目末尾までを以下のとおり改める。「(五) 控訴人らの損害等

控訴人らは被控訴人の債務不履行により、次のとおり損害を被った。

(1) 控訴人セイコー辻本

凌駕システムの代金前払分 九八五万円

〈1〉 凌駕システムが契約内容どおりの機能性能を有することを前提として、納入前に前払いした金額

〈2〉 選択的に契約解除に基づく原状回復請求としての不当利得返還請求(後記二5のとおり)

(2) 控訴人プラスパーシステム(合計三三六万六六四〇円)

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 五八万六六〇〇円

凌駕システムが使用不能であるにもかかわらず、控訴人プラスパーシステムが株式会社インテックリース(以下「インテックリース」という。)との間でリース契約を締結したために、同社に支払いを余儀なくされた既払リース料相当損害金(リース料金四万一九〇〇円×一四回)

〈2〉 凌駕システム販売諸経費 二〇二万一〇四〇円

控訴人プラスパーシステムが凌駕システム販売に当たり、実際に要した営業経費相当損害金

〈3〉ぴいえいと既払リース料 七五万九〇〇〇円

控訴人プラスパーシステムが被控訴人の代理店として株式会社ぴいえいとに欠陥のある凌駕システムを販売したことから、同社に対し支払いを余儀なくされた凌駕システムの既払リース料相当損害金

(3) 控訴人キープロン(合計二三四万一四六八円)

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 四六万〇九〇〇円

凌駕システムがマニュアルどおり作動せず、被控訴人より完全な債務の履行を受けていないにもかかわらず、インテックリースに対して支払いを余儀なくされた既払リース料相当損害金(リース料金四万一九〇〇円×一「回)

〈2〉 人件費 二二万〇一六八円

被控訴人より完全な債務の履行を受けることを前提に、凌駕システムの販売のために投入した人件費相当損害金

〈3〉 展示ルーム開設費用 三〇万円

凌駕システム販売のため、特に展示ルームを賃借して、同ルームを開設したことによる開設費用相当損害金(月額五万円×六か月)

〈4〉 宣伝用パンフレット印刷代 五六万〇四〇〇円

被控訴人より完全な債務の履行を受けることを前提に、凌駕システムの販売のため、用意した宣伝用パンフレット印刷代相当損害金

〈5〉 約束手形差し入れ金 八○万円

凌駕システムのハード代金として、控訴人キープロンが被控訴人あてに振り出した約束手形金(額面四〇万円二通)の返還請求権

〈6〉 予備的主張

〈2〉〈3〉〈4〉の合計一〇八万〇五六八円が証拠上容認されない場合の予備的請求原因の変更として、

約束手形差し入れ金 一〇五万円

凌駕システムのソフト代金として、控訴人キープロンが被控訴人あてに振り出した約束手形金(額面一〇五万円)の返還請求権

(4) 控訴人フィチュアシステム(合計七八万八八一五円)

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 四五万二二〇〇円

凌駕システムがマニュアルどおり作動せず、被控訴人より完全な債務の履行を受けていないにもかかわらず、インテックリースに対して支払いを余儀なくされた既払リース料相当損害金

(リース料金三万二三〇〇円×一四回)

〈2〉 凌駕システム販売諸経費 三三万六六一五円

控訴人フィチュアシステムが凌駕システム販売に当たり、実際に要した営業経費相当損害金

(5) 控訴人日本漢方同仁(合計一三五万五一九四円)

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 三六万一二〇〇円

凌駕システムがマニュアルどおり作動せず、被控訴人より完全な債務の履行を受けていないにもかかわらず、インテックリースに対して支払いを余儀なくされた既払リース料相当損害金(リース料金五万一六〇〇円×七回)

〈2〉 凌駕システム専用伝票作成費用 五〇万円

凌駕システムの完全な納入を受けることを前提として発注した電算機用専用伝票作成費用

〈3〉 凌駕システム登録のパンチ入力外注費用 三二万七八〇〇円 凌駕システムの完全な納入を受けることを前提として支出したパンチ入力料

〈4〉 電話切り替え工事等費用 一六万六一九四円

凌駕システムの完全な作動を前提とする電話切り替え工事費用」

5  同三一頁六行目冒頭から三二頁一〇行目末尾までを以下のとおり改める。

「(七) よって、控訴人らは、被控訴人に対し、債務不履行による損害賠償及び契約解除による原状回復請求として、控訴人セイコー辻本につき九八五万円、控訴人プラスパーシステムにつぎ三三六万六六四〇円、控訴人キープロンにつき二三四万一四六八円、控訴人フィチュアシステムにつき七八万八八一五円、控訴人日本漢方同仁につき一三五万五一九四円及びこれらに対するそれぞれ解除の意思表示の通知到達の日の翌日である、控訴人セイコー辻本につき昭和六二年一二月二七日から、控訴人プラスパーシステムにつき昭和六二年一月二一日から、控訴人キープロンにつき昭和六三年四月一九日から、控訴人フィチュアシステムにつき昭和六三年四月二一日から、控訴人日本漢方同仁につき昭和六二年一〇月二一日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。」

6  同三三頁二行目から四行目の「但し、被告ジャコスが原告セイコー辻本と締結した契約は凌駕システムの総合代理店契約である。」の部分を削る。

7  同四一頁一〇行目から一一行目の「被告音羽の仕入商品に関するEOSシステム」を「被控訴人が開発した控訴人音羽の仕入商品に関するオンライン受発注・伝票処理システム「EOSシステム」(以下「EOSシステム」という。)」と改める。

二  控訴人らの当審における主張

1  契約内容について

被控訴人が控訴人らに提供した凌駕システムについてのパンフレット類に記載された基本的性能ないし長所は、その表現の一語一句にとらわれる必要はないとしても、控訴人らとの契約内容そのものを構成するものである。

また、たとえ右パンフレット類が契約書に添付されていないとしても、控訴人らは、右パンフレット類の性能ないし長所を理解したうえで契約締結に踏み切っており、凌駕システムが備えるべき性能ないし長所であることが当然の前提であることから、右パンフレット類記載の基本的性能ないし長所は契約内容をなし、被控訴人の債務の内容を構成するものである。

この点において、原判決は、契約内容の認定に誤った判断を持ち込んでいる。

しかも、右パンフレット類に記載された基本的性能ないし長所は、パンフレットにより互いに認識されているものであるから、単なる契約の隠れた動機にすぎないものではなく、表示された動機として契約内容の本旨を構成するものである。

また、原判決は、凌駕システムなるコンピュータシステムにおいて、ユーザーにとって、被控訴人の提供したパンフレットに記載された基本的性能ないし長所が、機種選択をする際に大きく影響を与えるものであることについての理解がなく、単なる利点の強調というとらえ方しかしていない。

しかし、コンピュータシステムのハード(機械)並びにソフトを含む環境設定のいかんによっては、ユーザーの企業戦略にまで重大な差異をもたらすもので、まさに被控訴人のパンフレットによる説明内容は、ユーザーとの契約内容に重大な要素を占めるものである。

2  凌駕システムは、被控訴人のパンフレットに記載された基本的性能を備えていない。

原判決は、オンラインエラー、リアルタイム処理、電話料金、機密保護等について、個々の分析をしたうえ、個別的な問題点があるとの指摘をしながら、それぞれにおいて債務の内容たるパンフレットの基本的記載内容に相違するとはいえず、債務不履行に当たらない、とする。

しかし、それぞれの基本的項目に問題点があり、複合的にみて、凌駕システムがパンフレットの基本的記載内容をいずれも満たさないとすれば、それは被控訴人の説明した「凌駕システム」ではなく、被控訴人は、控訴人らに対し、全く基本的性能の異なったコンピュータシステムを購入させ、もしくは代理店契約を締結させたことになる。

原判決の基本認識は、個々の問題点における「受忍限度」を前提に、個別的に債務不履行の有無を判定している。

しかし、コンピュータシステムの基本的性能は、ユーザーが受忍できるか否かではなく、まさにパンフレットに記載されたとおりの基本的性能が存するか否かが問題とされなければならない。

まして、基本的性能の一箇所にのみ問題点を有するわけではなく、個々の基本的事項にそれぞれ問題点を有するならば、ユーザーにとって、パンフレットと異なった、あるいは記載事項に満たない性能しか有しないコンピュータシステムを購入するはずがないのである。

3  錯誤無効の主張(甲事件につき)

前記主張のとおり、被控訴人がパンフレットにおいて、

(1) リアルタイム処理

(2) 操作はバカチョン(簡単操作)

(3) 入力データ量が無限

(4) 市内電話料金による維持費節減

(5) 機密保護対策の完備

と説明する内容のいずれもが厳密に凌駕システムに備わっておらず、全体としてパンフレットに記載された基本的性能を具備したものといえない以上、右性能ないし長所が備わっていることを前提に契約した控訴人ら(甲事件原告ら)は、錯誤により契約をしたものであから、無効である。

4  詐欺による取消しの主張(甲事件につき)

控訴人ら(甲事件原告ら)は、被控訴人が、凌駕システムにはパンフレットに記載された性能ないし長所がないのに、それがあるものと控訴人らを欺罔した結果、錯誤に陥り、被控訴人との契約に踏み切ったものである。

右控訴人らは、平成七年四月二四日陳述の控訴第一準備書面により、詐欺を理由に被控訴人との契約を取り消す旨の意思表示をした。

5  控訴人セイコー辻本の主張(不当利得返還請求権・甲事件につき)

控訴人セイコー辻本から被控訴人に対し、代金九八五万円を支払済みでありながら、凌駕システムが控訴人セイコー辻本に納入されていないために発生した不当利得返還請求権

控訴人セイコー辻本の右主張は、凌駕システムが被控訴人の債務不履行であると否とにかかわらず、控訴人セイコー辻本から、昭和六二年一二月二四日付け内容証明郵便により、被控訴人に販売代理店契約終了を通知した前後を問わず、現在に至るも、凌駕システムがセイコー辻本に納入されていないために、当然請求しうるものである。

三  被控訴人の当審における主張

1  控訴人らの主張は、いずれも、凌駕システムの「パンフレットの位置付け」及び「具体的欠陥」に関わるものないしこれを前提とするものであり、その主張が理由のないことは、原判決が適正に認定、判断しているところである。

2  凌駕システムの機能、性能について

(一) 機密保護機能について

フロッピーディスクの中には各ユーザー毎のパスワードが本来的に組み込まれており、当該フロッピーディスクを持つ者でなければシステムを作動、利用することはできないのであるから、機密は保護される。ただし、当該フロッピーディスクを持つ者であれば誰でもシステムを作動、利用することができ、そのデータ内容を知りうることになるが、そのことは多くのコンピュータに共通のことである。そして、フロッピーディスクの保管は各ユーザーの責任においてなされる通常の事態を予定しているのであって、盗難、紛失等の異常事態の防止までは予測していないのである。ただし、万一異常な事態が生じたときは、被控訴人に連絡、届出がなされれば、被控訴人において直ちに利用を停止して事故を防止する仕組みになっている。

ユーザーが使用の都度パスワードや暗唱番号を打ち込む方法をとるときは、機密保護の機能は更に強固となるが、ユーザーが企業内などで複数人で利用するときは操作が非常に複雑になり、かえって簡単操作(バカチョン)機能に背反することになる。それは希有な事故の防止のために一般的利便性を犠牲にすることとなり、本件システムの重大な機能を滅却することとなる。

また、フロッピーディスクにコピー防止機能は付されていない。

以上は、本件契約当時においての機密保護機能としては標準レベルであったと認められ、また、パンフレットの記載に反するものでもない。

(二) リアルタイム処理について

データ処理のうち、請求処理と月次処理は、依頼した日の翌日の処理となっている。それは、右処理が本来的に即時の処理を必要とするものではないこと及び右処理を夜間に行うことによりコンピュータを効率的に稼働させ、もって、凌駕システムのセールスポイントの一つである利用料金の低コスト化を実現するためである。

請求処理と月次処理が翌日処理であることは、契約締結時には説明済みであるし、また、それが欠陥に当たらないことは、原判決において正当に摘示されているところである。

(三) 電話料金について

ユーザーが負担する費用は、各アクセスポイントまでの電話料金である。大阪地区においてアクセスポイントは当時大阪市にしか存在しなかったから、大阪市外のユーザーが負担するのは市外通話料ということになる。ただし、アクセスポイントが大阪市にしかなかったのは、当時は関西地区では大阪市外に存する顧客が少なく、ほとんど不便が存しなかったことによる。被控訴人は、大阪市外の顧客が増加した場合はその地域にもアクセスポイントを設置する予定であった。

この点、パンフレットの記載に誤りがあることを認めざるをえないが、それが凌駕システムの欠陥ないし被控訴人の債務不履行にならないことは、原判決において正当に摘示されているところである。

(四) プリントアウトの仕組みについて

凌駕システムにおいては、ホストコンピュータの方から一方的にデータを送信しつづけるのではなく、一件のデータを送信してはユーザーの端末機からのそれを受信した旨の信号をホストコンピュータの方で確認して始めて次のデータを送信し、これを繰り返す仕組みになっている。

プリントアウト中に回線エラーが生じるとすれば、端末機からの信号の出力不足その他の障害によりホストコンピュータに信号が伝わらないこと、周囲の環境等によって右の信号ないしホストコンピュータから発信する信号が変形されてしまうこと、等が考えられる。ここにいう周囲の環境とはモータースパーク等の電磁波のことであって、それにより回線エラーが生じたとしても、それは凌駕システムの欠陥に起因するものではない。

3  EOSシステムについて

乙事件に関する控訴人セイコー辻本らの主張は、控訴人音羽と被控訴人との間の本件業務委託契約の性質、内容、EOSシステム構築義務の履行、端末回線登録基本料金の支払義務に関わるものであり、それらは既に原判決が適正に認定判断しているところである。

4  控訴人セイコー辻本の不当利得返還請求権について

凌駕システムは利用者が電話回線を通じて被控訴人保有の大型コンピュータを共同利用しうるシステムをいうのであって、そこには「納入」なる概念は存在しないところ、被控訴人は控訴人セイコー辻本の代金支払に対していつでも右システムを利用できるべくその義務を履行しており、原判決に判断の脱漏はない。

第三  証拠

原審及び当審における本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  甲事件本訴請求について

一  被控訴人に対する請求原因について

1  代理店契約等の締結

原判決五二頁二行目冒頭から五五頁五行目末尾までの記載を引用する。

2  凌駕システムの欠陥の有無

(一) パンフレットの位置づけ

控訴人らは、凌駕システムの欠陥について、凌駕システムに関するパンフレットの記載内容と比較して実際の性能が異なると主張しているので、パンフレットの記載内容と被控訴人の契約上の債務、すなわち、凌駕システムが備えるべきものとされる性能等との関係を検討する。

いずれも成立に争いのない甲A第一ないし第五号証、第八ないし第一五号証によれば、控訴人らのいうパンフレットとは、被控訴人が凌駕システムの利用及び代理店加入を広告、勧誘する目的で作成したものであり、その内容は凌駕システムや凌駕システム代理店制度の概況、利点等を説明するものであり、控訴人らは、右パンフレットによって初めて凌駕システムの内容等を知り契約締結に至ったこと、右パンフレットはユーザー契約及び代理店契約の契約書に添付されているわけではないが、被控訴人においても、凌駕システムに関して作成したパンフレットの内容は凌駕システムについての被控訴人の認識を示したものであって、契約書には凌駕システムの性能について別段詳しく記載されていないことが認められるから、契約締結に当たって控訴人らと被控訴人とが前提とした凌駕システムの備えるべき機能性能は、右パンフレットの基本的な記載内容に基づくものであったと認めることができる。

右ユーザー契約の契約書面上は、ユーザー契約において凌駕システムの仕様として被控訴人が保証する内容は、「凌駕システム入出力体系図どおり」と記載されているが、この凌駕システム入出力体系図のみでは凌駕システムの機能性能の具体的内容を表示するに足らず、ユーザー契約において凌駕システムの仕様として被控訴人が保証する内容をすべて明示したものとはいえないことは、例えば、後記のとおりユーザー契約締結に当たって前提とされた基本的性能の一つとして認められるリアルタイム処理のできる点が、この入出力体系図自体には明示されていないことからも明らかである。このリアルタイム処理のできる点は、前示パンフレット(甲A第一号証)の「ON LINES REALTIME SYSTEM(オンラインズ・リアルタイムシステム)”凌駕“は・・・」との記載や「オフコンを凌駕する3大特長」の第一として挙げられている「リアルタイム(即時)処理 銀行のキャッシュサービスシステムと同様。人が変わっても大丈夫。オペレータがいらない。入力すると瞬時に計算処理・・・時間がかからない。」との記載により認められるものであり、このことからしても、被控訴人がパンフレットにおいて表示した凌駕システムの基本的機能性能を提供し、これを維持することが契約内容そのものとなっていたと解すべきである。

(二) 凌駕システムの概要

原判決五九頁四行目冒頭から六二頁一〇行目末尾までの記載を引用する。

(三) 控訴人ら主張の具体的欠陥について

そこで、控訴人らが主張する凌駕システムの具体的な欠陥について、その存否を検討する。

(1) オンラインエラー

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲A第一八号証の一、前掲第四二号証の二、三、第四三号証の一ないし七、第五一号証及び証人川口誠の証言によれば、昭和六二年九月五日及び七日ないし九日の四日間、控訴人日本漢方同仁において、大阪のアクセスポイントを通して、請求明細書をプリントアウトしようとした際、全部のプリントアウトが完了しないまま開始から二〇分ないし五〇分で回線が突然切れてしまい、途中で回線エラーになるとまた一枚目からの出力になるという事態が繰り返され、この間被控訴人とも連絡を取りあったが問題の解決はできず、同月九日には被控訴人の指示に基づき東京に直接回線をつなぎ、請求明細書をプリントアウトしようとしたが、やはり一四〇分かかっても、処理しきれず、結局、控訴人日本漢方同仁は請求明細書を全件プリントアウトすることを断念した事実が認められる。

ところで、凌駕システムは、「ジャコス保有の超大型コンピュータを、(お客様保有の)パソコンで活用できるシステムのパッケージ・ソフトウエア」、「入力データ量が無限」であることをうたい文句にしている(甲A第一号証)のであるから、出力時に全部のプリントアウトが完了しないまま回線が突然切れる等という事態が繰り返され、オンラインエラーが発生したということは、いくら被控訴人保有のホストコンピュータを利用でき、入力データ量が無限であるといっても、入力されたデータがスムーズに出力されなければ、その性能がないに等しいから、凌駕システムの備えるべき基本的性能と実際の機能が合致しないものというべきである。

被控訴人が主張するように、もしこれが凌駕システム自体の欠陥に起因するのではなく、たまたま生じたオンラインエラーにすぎないものであるとすれば、被控訴人において、このような事態に対応することができる処理方法を講ずるなりあるいはユーザーにその原因を説明するなりして、ユーザー側の不安不満を解消するべきであるにもかかわらず、これにつき、被控訴人が適切な対応をした事実は、本件全証拠によってもこれを認めることができない。

(2) リアルタイム処理

前掲甲A第一号証によれば、本件凌駕システムが「オフコンを凌駕する3大特長」の第一として、「リアルタイム(即時)処理 銀行のキャッシュサービスシステムと同様。人が変わっても大丈夫。オペレータがいらない。入力すると瞬時に計算処理・・・時間がかからない。」とされ、前掲乙A第六号証及び証人中村逸郎の証言によれば、リアルタイム処理とは依頼を受ければ即時に処理して結果を返すことを意味するところ、凌駕システムのデータ処理のうち、請求処理(一か月ごとの請求書作成)と月次処理(月報作成)については処理を依頼した翌日に出力するシステムになっており、即時処理といえないこと、このことは、ユーザー契約後に配付されるユーザーガイド(乙A第六号証)には記載されているが、前示パンフレット及び前示凌駕システム入出力体系図を含むユーザー契約書には、リアルタイム処理に例外があることは何らの表示がなく、このことが契約締結の際までに控訴人らに示されたことを認めるに足りる証拠はない。

たとえ、請求処理や月次処理は在庫の状況や得意先の依頼状況等の管理データと異なり一般的に緊急性に乏しいものであるとしても、リアルタイム処理をうたう以上、依頼に応じ即時処理されるべきであり、これが依頼の翌日にしか出力されないのであれば、ユーザーにおいて請求処理や月次処理を即日に必要な場合に対応できないものであって、上記「銀行のキャッシュサービスシステムと同様・・・入力すると瞬時に計算処理・・・時間がかからない」ことをうたったリアルタイム処理ができるとの基本的性能に欠けるものと評価せざるをえない。

(3) 電話料金

控訴人プラスパーシステム代表者本人尋問の結果及び証人中村逸郎の証言によれば、当時近畿地区では大阪にのみアクセスポイントが設置されていたため、大阪を除く近畿地区から凌駕システムを使用するとすれば、ユーザーはアクセスポイントまでの市外通話料金を負担しなければならないことが認められる。

このことは、「ユーザーの負担する電話料金は、市内通話料金だけ」という契約の債務の内容たるパンフレットの基本的記載(甲A第一号証)に相違するものであることは明らかである。

(4) モニター画面の表示、売上伝票が二種類のみであること、機密保護、電話番号での登録

前掲甲A第一、第一二、第一五号証、第四三号証の二、三、第五一号証、乙A第六号証及び証人中村逸郎、同川口誠の各証言、控訴人プラスパーシステム代表者本人尋問の結果によれば、商品名は漢字二〇文字までマスター登録できるものの、凌駕システムに対応できる端末機として用意されている「ジャコ端スリー」のモニター画面上には一七文字までしか表示されないこと、前示パンフレットには売上伝票(納品書)が二四種類作成できると記載されているのに、実際に作成できた売上伝票は二種類であること、前示パンフレットには「機密保護対策・・・パスワード等による利用者の資格チェック、ネットワークの閉域接続による通信保護、データの暗号化による回線上の盗難防止を行っています。」と記載されている(甲A第一号証)が、現実には、フロッピーディスクがあれば当該フロッピーディスクのユーザーのデータ内容を知ることができるものであったこと、被控訴人は、凌駕システムの性能の一つとして電話番号を入力するだけで取引先の登録ができる旨のパンフレットを作成し、代理店活動の資料として控訴人フィチュアシステムに対し交付していたが、凌駕システムはこのような性能を有するものとは予定されていなかったこと、が認められる。

(四) 以上によれば、凌駕システムには、前示代理店契約及びユーザー契約の内容として合意された凌駕システムの基本的機能性能に欠ける点があるといわなければならず、被控訴人において同契約により定められた債務の本旨に従った履行をしたものと認めることはできない。

3  バックアップ体制について

(一) パンフレットの位置づけ及びその内容

次に、代理店契約に基づくバックアップ体制に関して、被控訴人の債務不履行の有無を検討する。

前掲甲A第二、第三、第五号証、第八ないし第一四号証、第五一号証、控訴人セイコー辻本代表者本人尋問の結果及び控訴人プラスパーシステム代表者本人尋問の結果によれば、パンフレットに「代理店の仕事は・・・”凌駕“をお客様(企業)に紹介、契約をとるだけです。あなたはコンピュータの知識はまったくいりません。・・・その方々にこの”凌駕“を紹介するだけです。・・・バックアップ体制は万全です。代理店営業指導をきめ細かに実施、セールスフォローいたします。」と記載されているように、本件代理店契約において、代理店に期待される主な役割は凌駕システムを使用する顧客を開拓して被控訴人に紹介することであり、代理店になろうとする者が凌駕システム及びコンピュータについての十分な知識を有していることを予定せず、凌駕システムの維持運営に関わる顧客サービスは被控訴人が主に担当するとされていたこと、代理店は販売実績に応じて売上額の二五ないし三五パーセントのバックマージンを得るとされていたこと、販売についてのノルマや制裁は別段課されていないこと、被控訴人は代理店の販売活動を支援するため有償でカタログ、パンフレット、ビデオなどの各種販売促進ツールの提供や、要員教育等を行うこととされていたことが認められる。

(二) 請求原因1三(2)の各不履行事実の存否

原判決八四頁五行目から八六頁五行目までの記載を引用する。

(三) 以上によれば、控訴人ら主張のバックアップ体制の不備として主張する事実は、研修会の不実施を除き認めることができる。

そして、本件代理店契約において、代理店が凌駕システムを使用する顧客を開拓して被控訴人に紹介することができるようにするためには、凌駕システムが債務の内容となっている基本的機能性能を備えていることは勿論、販売のためのバックアップ体制が整えられていることが必要であるから、前記凌駕システムの欠陥とあいまって、被控訴人のバックアップ体制が必ずしも現実のものとして機能していないことは、前示代理店契約の内容として合意された内容に反するものといわなければならず、被控訴人において同契約により定められた債務の本旨に従った履行をしたと認めることはできない。

4  凌駕システムについての結論

以上によれば、被控訴人には、前示ユーザー契約及び代理店契約に共通する債務である契約の本旨に従って凌駕システムを提供する債務に違反し、また、代理店契約上の債務である契約の本旨に従ってバックアップ体制を維持する債務にも違反したものといわなければならず、この違反事実は、控訴人ら(甲事件原告ら)に右契約の解除権を発生せしめるに足りる債務不履行に当たるというべきである。

5  契約解除の事実

控訴人ら(甲事件原告ら)は、被控訴人に対し、前記債務不履行の改善方を再三申し入れたが、被控訴人はなんら改善を講じなかったので、控訴人らは被控訴人に対し、代理店契約あるいはユーザー契約の解除の意思表示及び損害賠償の履行の請求をし、控訴人セイコー辻本のそれは昭和六二年一二月二六日に、控訴人プラスパーシステム及び控訴人キープロンのそれは昭和六三年四月一八日に、控訴人フィチュアシステムのそれは同年同月二〇日に、控訴人日本漢方同仁のそれは昭和六二年一〇月二〇日に、それぞれ被控訴人に到達した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

6  控訴人らの損害について

(一) 控訴人セイコー辻本

控訴人セイコー辻本は、被控訴人に対し、凌駕システムの代金九八五万円を支払済みであることが認められる(乙B第一〇、第一一号証、控訴人セイコー辻本代表者本人尋問の結果)から、同控訴人主張のとおり、右代金相当額九八五万円が被控訴人の債務不履行に基づく同控訴人の損害と認めることができる。

(二) 控訴人プラスパーシステム

控訴人プラスパーシステム代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲A第三四号証、第三八号証の一ないし三及び同尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、同控訴人主張のとおり、以下の合計三三六万六六四〇円を損害と認めることができる。

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 五八万六六〇〇円

〈2〉 凌駕システム販売諸経費 二〇二万一〇四〇円

〈3〉 ぴいえいと既払リース料 七五万九〇〇〇円

(三) 控訴人キープロン

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲A第三五号証、第三九号証の一ないし四、第四五号証、第五二号証、第五四号証及び第五五号証並びに弁論の全趣旨によれば、同控訴人主張のとおり、以下の合計二三四万一四六八円を損害と認めることができる。

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 四六万〇九〇〇円

〈2〉 人件費 二二万〇一六八円

〈3〉 展示ルーム開設費用 三〇万円

〈4〉 宣伝用パンフレット印刷代 五六万〇四〇〇円

〈5〉 約束手形差し入れ金 八〇万円

(四) 控訴人フィチュアシステム

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲A第三六号証、第四〇号証の一ないし一〇並びに弁論の全趣旨によれば、同控訴人主張のとおり、以下の合計七八万八八一五円を損害と認めることができる。

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 四五万二二〇〇円

〈2〉 凌駕システム販売諸経費 三三万六六一五円

(五) 控訴人日本漢方同仁

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲A第三七号証、第四一号証の一ないし六並びに弁論の全趣旨によれば、同控訴人主張のとおり、以下の合計一三五万五一九四円を損害と認めることができる。

〈1〉 凌駕システムの既払リース料 三六万一二〇〇円

〈2〉 凌駕システム専用伝票作成費用 五〇万円

〈3〉 凌駕システム登録のパンチ入力外注費用 三二万七八〇〇円〈4〉 電話切り替え工事等費用 一六万六一九四円

二  よって、控訴人ら(甲事件原告ら)の請求は、いずれも理由がある。但し、控訴人プラスパーシステムが昭和六二年一月二一日から履行の請求の到達した日である昭和六三年四月一八日までの遅延損害金を請求する部分は理由がないから棄却すべきである。

第二  甲事件反訴請求について

一  請求原因について

1  控訴人ら(甲事件反訴被告ら)がインテックリースと凌駕システムについて本件各リース契約を締結したことは当事者間に争いがない。

2  控訴人ら(甲事件反訴被告ら)が請求原因(二)に記載する各日時に所定の月額リース料を支払わなかったことは当事者間に争いがない。

3  被控訴人が主張するインテックリースから被控訴人へのリース料債権譲渡の事実及びインテックリースが右債権譲渡について債務者である各控訴人ら(甲事件反訴被告ら)に通知した事実は、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙A第一ないし第五号証により認められる。

二  抗弁(信義則)について

被控訴人は、インテックリースから控訴人らに対するリース料債権の譲渡を受けることにより、凌駕システムに関して債務の本旨に従った履行をなすべき債務者の地位と、凌駕システムに関するリース料を請求しうる債権者の地位を兼ね備えることになるところ、凌駕システムについて、控訴人ら(甲事件原告ら)に対し債務不履行があることは前記のとおりである。

そうすると、たとえ、リース物件の貸主において、リース物件に欠陥がある場合でも責任を負わない旨の免責条項があったとしても、被控訴人が、一方で欠陥のある商品を販売、提供しておきながら、他方で、リース物件の貸主から債権譲渡を受けたからといって、商品の欠陥と無関係にその商品のリース料を請求できるとすることは、信義則上許されるべきではないから、控訴人ら(甲事件反訴被告ら)は、被控訴人に対し、リース料の支払いを拒むことができると解するのが相当である。

したがって、被控訴人のリース料請求は理由がない。

第三  乙事件請求(EOS契約に基づく請求)について

当裁判所の乙事件請求についての判断は、次のとおり訂正するほかは、原判決理由「第三 乙事件請求」(九二頁末行から一一五頁一〇行まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一〇〇頁八行目から九行目に「昭和六二年一一月四日から、被告音羽では実際にEOSシステムでの受発注業務を始めてみたところ、」とあるのを、「昭和六二年一一月四日、EOSシステムが稼働を開始し、控訴人音羽の二六ある各店舗で、実際にEOSシステムでの受発注業務を始めてみたところ、」と改める。

2  同一一〇頁九行目冒頭から一一一頁八行目末尾までを以下のとおり改める。「被控訴人の再抗弁は理由がなく、本件業務委託契約は昭和六二年一二月二六日限り終了したものであり、被控訴人は本件業務委託契約の対価につき、端末回線登録基本料金を除く費用については、既に作業を終了しているものであるから、その全額二二七万五一八〇円の請求権を有するものである。

また、右基本料金については、前記認定のとおり、控訴人音羽の一店舗につき月額二万円を基準として、一年間で二四万円、五年分一括して支払うなら一〇〇万円とするとの合意があるものの、甲B第一一号証(被控訴人大阪支社が控訴人音羽あてに昭和六一年六月に作成したEOSシステムの説明文書)によれば、控訴人音羽の各店舗に発生する費用のうち、EOSシステム稼働後の費用として、データ通信基本料金月額二万円が計上されていることが認められ、また、情報処理料金の支払義務は利用の対価であると解するのが相当であるから、被控訴人は、控訴人音羽の各店舗にハンディターミナルが設置され、かつ、EOSシステムが稼働を開始した昭和六二年一一月四日以降、本件業務委託契約が終了した同年一二月二六日までの二か月間の二六店舗分の基本料金合計一〇四万円の請求権を有するものである。

したがって、被控訴人は、以上合計三三一万五一八〇円を控訴人音羽及び控訴人セイコー辻本に請求しうるものである。」

3  同一一一頁九行目から一一四頁一行目までを以下のとおり改める。

「五 抗弁(三)(詐欺による取消し)、同(四)(錯誤無効)及び同(五)(公序良 俗違反による無効)について

控訴人音羽の右各主張は、いずれも、本件業務委託契約のうち端末回線登録基本料金の支払義務が、EOSシステムの稼働とかかわりなく発生するものであることを前提とするところ、右のとおり、その前提を欠くことは明らかであるから、失当である。」

4  同一一四頁二行目から一一五頁一〇行目までを以下のとおり改める。

「六 控訴人セイコー辻本の抗弁(六)(相殺)について

前掲乙B第五、第七号証及び第九ないし一一号証によれば、控訴人セイコー辻本と被控訴人との間に控訴人セイコー辻本が主張するとおりの総合代理店販売手数料についての合意が存したことが認められ、これに反する証拠はない。したがって、控訴人セイコー辻本は被控訴人に対し、機器納入総額七二五万円の五〇パーセントに当たる三六二万五〇〇〇円の販売手数料債権を有していることになる。なお、端末登録基本料金の販売手数料については、前判示のとおり本件業務委託契約が原則として自由に解約できるものであり、かつ、代理店は顧客が被控訴人に対して負う債務を連帯保証しているものであることを考慮すれば、右の販売手数料の額は被控訴人において現実に顧客に請求し得る額を基準として算出するのが相当であり、本件では前記のとおり一〇四万円の限度で端末登録基本料金が認められるから、その一〇パーセント(一〇万四〇〇〇円)が右の販売手数料債権額となる。よって、控訴人セイコー辻本が後記意思表示の時点で有する販売手数料債権は、合計三七二万九〇〇〇円である。

控訴人セイコー辻本は被控訴人に対し、平成五年九月三日の原審口頭弁論期日において、相殺の意思表示をした。

右相殺の意思表示により、被控訴人が控訴人音羽及び控訴人セイコー辻本に対して有している前記本件業務委託契約上の債権三三一万五一八〇円と、控訴人セイコー辻本の有している右販売手数料債権三七二万九〇〇〇円は、相殺適状となった本件業務委託契約の成立時(昭和六二年六月二七日)に対当額においてそれぞれ消滅したから、被控訴人の請求権は存在しないことになる。」

第四  結論

以上のとおり、甲事件本訴については、控訴人らの請求は、いずれも理由があるから正当として認容し(但し、控訴人プラスパーシステムが昭和六二年一月二一日から昭和六三年四月一八日までの遅延損害金を請求する部分は理由がないから棄却すべきである。)、甲事件反訴及び乙事件については、被控訴人の請求を失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九二条但書を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

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